雨宿りとWEBの小噺 EP.XX:「アイコンの秘密 - 日常で使うシンボルの意外な起源」
オープニング
「雨宿りとWEBの小噺」
パーソナリティの Keeth こと桑原です。 この番組では,目まぐるしく変化するWeb業界の中,ちょっと一息つける裏話や小噺などをお届けします.
世の中にはたくさんの「アイコン」が使われています.
例えばスマホのホーム画面,あるいはパソコンの画面をちょっと見渡してみてください。そこには様々なシンボルが並んでいますよね。保存ボタン、電源マーク、Wi-Fiのシンボル...
そこで今回のテーマは「アイコンの秘密 - 日常で出てくるシンボルの起源」です。私たちが毎日何気なく使っているデジタルシンボルの意外な歴史や由来について、雨宿りをしながらお話ししましょう。
本編
Part 1: そもそもアイコンとは - グラフィカルユーザーインターフェースの革命
まず、コンピュータ上の「アイコン」がどのように誕生したのかについて、少しお話しします。
(少し懐かしむ声で) 1970年代まで、コンピュータは黒い画面に白や緑の文字だけが表示される、いわゆる「コマンドライン」で操作するものでした。使うには専門知識が必要で、一般の人には非常に敷居の高いものだったんです。
そこで革命を起こしたのが、ゼロックスのパロアルト研究所(PARC)で開発された「グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)」。1973年に完成したXerox Altoというコンピュータは、画面上にアイコンやウィンドウを表示し、マウスで直接操作するという、当時としては画期的な仕組みを導入しました。
この技術を見たスティーブ・ジョブズが感銘を受け、後のApple Lisaや1984年のMacintoshへと発展していきます。そして、Windowsも同様のインターフェースを採用し、今日のパソコンの標準になりました。
アイコンの本質的な役割は「抽象的な機能を視覚的に表現する」こと。言葉や文字の壁を越えて、直感的に機能を理解できるようにする視覚言語なんです。
(雨音が少し強くなる)
Part 2: フロッピーディスクの保存アイコン - デジタル世界の化石
皆さんが最もよく使うアイコンの一つが「保存」ボタンですよね。あの青い四角いアイコン...そう、フロッピーディスクの形をしています。
(笑いながら) でも、今の若い方々はフロッピーディスクを実際に見たことがないかもしれませんね。私が新卒の頃はまだ使っていましたが、今ではほぼ絶滅した記憶メディアです。
3.5インチフロッピーディスクが登場したのは1980年代初頭。当時は革命的な記憶媒体でした。容量はたったの1.44MBで、今のスマホの写真1枚も入らないサイズですが、当時はこれで文書やプログラムを保存していたんです。
Microsoft Wordで初めて「保存」アイコンとしてフロッピーディスクが使われたのは1990年代初頭。当時は実際にフロッピーに保存することが一般的だったので、直感的なシンボルだったんですね。
面白いのは、フロッピーディスクが実用からほぼ消えた今でも、このアイコンが使われ続けていること。「保存」という概念を表す視覚的なシンボルとして定着してしまい、変更するとユーザーが混乱するため、残り続けているんです。
これはデジタル世界の「化石」とも言えますね。雨宿りの場所が変わっても、「雨宿り」という概念は残り続けるのと似ているかもしれません。
Part 3: 電源ボタンの「I」と「O」 - 工学的起源
次に見てみたいのは、あらゆる電子機器に付いている電源ボタン。円の上部に縦線が入ったあのマークです。
(教えるような口調で) この記号、実は国際電気標準会議(IEC)が定めた規格で、正式には「IEC 5009」と呼ばれています。
でも、このマークの起源は意外と古くて、1940年代にさかのぼります。元々は2つの記号があり、「I」は電源オン(接続)、「O」は電源オフ(切断)を表していました。これはバイナリの「1」と「0」にも通じますね。
この2つの記号が合体し、「I」と「O」を重ねたような形になったのが、現在の電源マークです。正確には「スタンバイパワー」を表し、完全にオンでもオフでもない状態を示しています。
ちなみに、昔のパソコンには「I」と「O」が別々に書かれた大きな電源スイッチがついていたのを覚えている方もいらっしゃるかもしれません。
このマークが優れているのは、言語を超えて理解できること。世界中どこに行っても、この記号を見れば「電源」だとわかるんです。雨のシンボルが世界共通であるように。
(雨音が少し弱まる)
Part 4: Wi-Fiのシンボル - 電波を視覚化する
私たちの生活に欠かせなくなったWi-Fi。そのアイコンは、だんだん大きくなる弧(または点)の形をしていますよね。
(軽快な声で) Wi-Fiのアイコンは、電波が発信源から広がっていく様子を視覚化したものです。1999年頃から使われ始めましたが、当初はさまざまな形がありました。
現在主流の「弧」の形に統一されたのは、Wi-Fi Allianceという団体が標準化を進めてからです。ただ、面白いことに、弧の数や向きは完全に統一されていません。iPhoneでは上向きに弧が並びますが、Androidでは下向きだったりします。
また、Wi-Fiアイコンの横に表示される「5G」や「4G」という表示は、Wi-Fiとは全く関係なく、携帯電話回線の規格を表しています。これはユーザーにとって少し紛らわしい点かもしれませんね。
Wi-Fiマークの面白い点は、見えないものを見えるようにする試みだということ。目に見えない電波を、誰にでもわかる形で表現しているんです。雨は目に見えますが、電波は見えません。でも、このアイコンのおかげで「今、電波に囲まれているな」と感じることができます。
Part 5: ハンバーガーメニュー - 食べ物からきたUIパターン
スマホアプリやWebサイトで、よく見かける「三本線」のアイコン。これは「ハンバーガーメニュー」と呼ばれています。
(楽しげな声で) この名前の由来は、そのまま見た目から来ています。三本の横線が、ハンバーガーのパンと具材を重ねたように見えることから「ハンバーガーメニュー」と呼ばれるようになりました。
このアイコンが初めて使われたのは、1981年のXerox Starというコンピュータ。その後、長らく忘れられていましたが、スマートフォンの普及と共に復活しました。画面が小さいスマホでは、メニューを隠しておく必要があり、このシンプルなアイコンが再評価されたんです。
面白いのは、このアイコンに対する賛否両論があること。使いやすいと評価する人がいる一方で、「メニューが隠れていて見つけにくい」という批判もあります。実際、このアイコンを認識できないユーザーも多いという調査結果もあるんです。
最近では、ハンバーガーメニューに代わる設計も増えてきています。ボトムナビゲーションバーなど、より直感的に操作できるUIが増えてきていますね。
デザインの世界では「わかりやすさ」と「スペースの節約」はいつも綱引きをしています。雨宿りするにも、広いスペースと利便性のバランスが大切なのと似ていますね。
Part 6: コピー&ペーストのシンボル - ハサミと糊の名残
コピー&ペーストは、現代のデジタル作業には欠かせない機能です。そのアイコンはどこから来たのでしょうか?
(少し懐かしい口調で) 多くのアプリでは、コピーのアイコンは「2枚の重なった紙」、ペーストのアイコンは「クリップボードに紙が貼られている」図柄になっています。
これらのアイコンは、実は物理的な「切り貼り」作業に由来しています。新聞や出版の編集者たちは、記事やレイアウトを調整する際に、実際にハサミで切って糊で貼り付けていました。英語の「cut and paste(カットアンドペースト)」という言葉は、この作業から来ています。
Macintoshの初期バージョンでは、コピー機能にはコピー機のアイコン、カット機能にはハサミのアイコンが使われていました。これらは実世界の道具をそのままデジタルに持ち込んだ例です。
このように、デジタル世界のアイコンの多くは、アナログ時代の道具や作業を視覚化したものなんです。
雨宿りの方法も、昔は木の下や洞窟でしたが、現代では傘や建物になりました。でも「雨から身を守る」という本質は変わらないのと似ていますね。
(雨音がさらに弱まる)
Part 7: 検索の虫眼鏡 - 拡大から探索へ
検索機能といえば、虫眼鏡のアイコンですよね。これはどこから来たのでしょうか?
(探るような声で) 虫眼鏡は、本来は小さなものを拡大して見るための道具です。しかし、デジタル世界では「何かを探す」という意味で使われています。
この変化は興味深い例で、本来の機能(拡大)から派生した行為(詳しく調べる)を経て、さらに派生した概念(検索する)を表すようになった例です。
シャーロック・ホームズのような探偵が虫眼鏡を使うイメージも、このアイコンの定着に一役買ったかもしれませんね。
虫眼鏡アイコンは、ほぼ世界中のあらゆるアプリやWebサイトで検索機能を表しています。言語や文化の壁を超えた、デジタル時代の万国共通語の一つと言えるでしょう。
雨雲のマークが「雨が降る」という意味を世界中で共有しているのと同じように、虫眼鏡は「検索」という意味を共有しています。
Part 8: 消えゆくアイコンたち - 技術の変化と共に
最後に、時代と共に消えていったアイコンについてもお話ししておきましょう。 (少し寂しげな声で) かつては一般的だったのに、今ではほとんど見かけなくなったアイコンがあります。例えば「手紙」のアイコン。以前はメールを表すのに使われていましたが、若い世代にとっては紙の手紙を書く経験がなく、このアイコンの意味が直感的にわからないという問題が出てきています。 また、「電話の受話器」のアイコンも、従来型の電話を使ったことがない世代には馴染みがないかもしれません。 興味深いのは、一部のアイコンは元になった実物がなくなっても生き残るということ。先ほど話したフロッピーディスクの保存アイコンがその代表例です。一方で、@マークは元々は商業用語の「単価」を表す記号でしたが、今ではすっかりメールアドレスの一部というデジタルな意味に変わりました。 テクノロジーが変わっても、アイコンは文化的な慣性を持ち、簡単には変わらないのです。これは言語と同じで、その起源から離れても、コミュニケーションの道具として残り続けるのです。 (雨音が止む) クロージング (晴れ間が見える音) さて、今日はデジタル世界のアイコンの秘密について旅してきました。 フロッピーディスクの保存ボタン、電源マークの「I」と「O」、Wi-Fiシンボルの電波表現など、普段何気なく使っているものにも、意外な歴史や由来があるものですね。 アイコンは、言葉や文化の壁を超えて、機能や概念を伝える「視覚的な言語」です。時代と共に変わるものもあれば、元の意味を離れて生き残るものもあります。 雨宿りを終えて外に出る時、ふと見上げる空のように、普段何気なく見ているデジタルシンボルにも、少し違った見方ができるようになったのではないでしょうか。 この番組面白かったよーという方は,ぜひチャンネル登録もお願いします.もし聴いていて気になることや、話してほしいトピック,感想などありましたら、概要欄のフォームや,𝕏 でハッシュタグ「WEB 小噺」でつぶやいてください!web はアルファベット,「小噺」は漢字でもひらがなでも大丈夫です! 今回もお聴きくださりありがとうございました!雨宿りをしながら考える技術の変遷.次回もどうぞお楽しみに.「雨宿りと WEB の小噺」お相手は Keeth でした。さようなら! 次回予告 次回は「デジタル考古学 - 今も動き続ける古代のコンピュータシステム」をお送りする予定です。驚くほど古いシステムが今も銀行や政府機関で動いている実態に迫ります。お楽しみに! エンドクレジット 今回のBGM: Icon Symphony 効果音: Summer Rain 編集: 雨宿りスタジオ