ソフトウェアライセンに関する小噺

台本

  • ソフトウェアにも,ライセンスという概念が存在する
  • 開発者コミュニティの文化や歴史が反映されており,興味深い逸話や小噺もいくつかある
  • 今回はそれの紹介

1. MIT ライセンスの由来

  • 有名な話
  • 名前を見れば一目瞭然
  • MIT ライセンス:マサチューセッツ工科大学(MIT)のプロジェクトで作られたことからその名前がついた
  • しかしその起源は、MIT の内部で「このコードをいろんな人に自由に使ってもらいたいけど、どうすればいい?」という議論が始まりだったらしい
  • 試行錯誤の結果,当初はもっと複雑な文面だったものが、「使う人が面倒だと思わないように」とシンプルにまとめられた結果、現在の形に落ち着いた

https://opensource.org/license/mit


2. GPL の「ウィルス」論争

  • GNU General Public License(GPL)
  • 再配布時にソースコードを公開する義務がある「コピーレフト」の性質を持つ
  • この性質から,一部の人たちから批判され「GPL はウィルスだ」と揶揄された
  • ソフトウェアが GPL ライセンスのコードと統合されると、全体が GPL ライセンスに従わなければならないから
  • これに対して、GPL の生みの親であるリチャード・ストールマンは
  • ウィルスというよりも『予防接種』だ。ソフトウェアが閉鎖的になるのを 防ぐための健全な仕組み

  • と反論
  • この比喩は OSS コミュニティで今も時々話題に上る

3. Apache License 2.0 と特許問題

Apache License 2.0 は特許の使用許可を明確にしている点が特徴ですが、これも興味深い背景があります。かつて、特許トロール(特許を侵害したと主張して訴訟を起こすことで利益を得る企業)が OSS プロジェクトを狙ったことがありました。この問題に対処するために、Apache ソフトウェア財団が「特許を明確に許諾する条項をライセンスに含めよう」として生まれたのが Apache License 2.0 です。

この取り組みのおかげで、OSS を商用利用する企業が特許侵害のリスクを気にせず採用しやすくなりました。


4. React のライセンス変更事件

2017 年、Facebook は React のライセンスを「BSD + 特許ライセンス」から MIT ライセンスに変更しました。この背景には、コミュニティからの猛烈な批判がありました。

Facebook の独自ライセンスには、Facebook に訴訟を起こした場合、特許利用が無効になるという条項が含まれていました。この条項に不安を覚えた企業が React の採用を控え始め、WordPress が React を使った管理画面の実装を取りやめると発表する事態に発展しました。この反発を受けて、Facebook は React を MIT ライセンスに切り替え、事態を収拾しました。


5. Unlicense と CC0 の「完全フリー」の裏事情

Unlicense や CC0(Creative Commons Zero)は著作権を完全に放棄する形のライセンスですが、「完全フリー」にも法的な問題が潜んでいます。著作権の放棄が法的に認められない国(例えばドイツ)では、このようなライセンスの効果が曖昧になりがちです。

結果として、多くの開発者は「完全フリーのつもりで公開したけど、実はその国では法的に保障されない」といった問題に直面しました。これを受けて、CC0 のようなライセンスは「著作権を放棄する」という表現に加え、「もし放棄が認められない場合は、最大限の権利許諾を与える」という条項を含めるようになりました。


6. カンファレンスでのライセンス議論

OSS カンファレンスでは、ライセンスが絡むディベートがたびたび行われます。あるカンファレンスで、「どのライセンスが一番 OSS に適しているか?」というテーマで議論が行われました。その場でのジョークとして、「一番適しているのは、ライセンスなしだ!」と言った開発者が喝采を浴びました。

しかし、他の参加者が「ライセンスなしにすると、むしろ法的にリスクが増える」と即座に反論し、最終的には MIT ライセンスの話題に戻るという結末に。ライセンスの重要性を改めて考えさせる場となりました。


7. ライセンスを巡るちょっとした笑い話

  • BSD ライセンスのビール条項:かつて、いくつかのソフトウェアに「ビールをおごる義務」が付いていた非公式ライセンスがありました。これは「もしこのソフトが役に立ったら、作者にビールをおごる」というユーモアのある条件を指します。実際のライセンスとしては不適切ですが、開発者同士のフランクな文化が伺えます。

  • GPL とカフェの例え:「GPL は、あなたがカフェで誰かと話したら、その内容をその場の全員に教えなければならない、という感じのライセンスだ」というジョークが OSS 界隈で語られます。これは GPL の「共有義務」を皮肉ったものですが、その意図を端的に示しています。


これらの小噺は、OSS ライセンスが単なる法的文書ではなく、コミュニティや文化の影響を大きく受けていることを示しています。ライセンス選びには歴史や背景を知ると、より深い理解が得られるでしょう。

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