縁の下のコード〜保守・運用エンジニアが評価されない理由と変わりつつある現実〜
台本
オープニング
【ジングル】 はい、どうもこんにちは。「雨宿りと WEB の小噺」、始まりました。Keeth こと桑原です。 今回もちょっとだけ、雨宿りしていきませんか。 今回のお題はですね、「縁の下のコード〜保守・運用エンジニアが評価されない理由と変わりつつある現実〜」。 ちょっとエモい話なんで、まぁ聞いてってください。
本題
最近ちょっと気になってることがあって。洗濯機の話から始めてもいいですか。 うちの洗濯機、底の方に排水フィルターがあって、そこに糸くずとか髪の毛とかが溜まるんですよ。 定期的に外して掃除しないと排水が詰まる。なんですけど、これ奥さん知らないんですよね。 別に責めてるわけじゃなくて、知らなくて当然で。なぜかというと、僕がやってるから「当たり前に洗濯機が動いてる」んです。 これ、ITの保守・運用の話にそのまま繋がるなと思ってて。
保守・運用エンジニアって何をしている人たちか、まず整理すると。 システムやアプリケーションが今日も正常に動いていることを担保する人たちですよね。 障害が起きたら即対応する。パフォーマンスが落ちてきたら原因を調べる。 セキュリティパッチを当てる。ログを見て異常の予兆を拾う。 表に出ることはほぼない。でもこの人たちがいなかったら、サービスは止まる。
で、この人たちの評価が低いケースが多い。なぜか。 一言で言うと「新しいお金を生まない」と見られるから。 新機能をリリースすれば売上が上がるかもしれない。新規事業を立ち上げれば次の柱になるかもしれない。 でも保守は「今あるものを壊さない」仕事なので、貢献がマイナスを防ぐ方向にしか働かない。 財務的には見えにくい価値なんですよね。
それだけじゃなくて、悪循環もある。 保守にいると新規プロジェクトにアサインされない → 新しい技術に触れる機会が減る → 「最近のこと知らなそう」と思われる → さらにアサインされない この負のループにハマっている人、僕の周りにも結構いた。 能力がないからじゃなくて、チャンスが与えられていないだけのことが多い。
僕の仮説として、もう1個あって。 「保守ばかりやってる=チャレンジ意欲がない」という誤った前提で判断してる上司・組織が一定数ある。 ちゃんと自己研鑽してる、新しい技術も追ってる、でもポジションが「保守担当」というだけで次の機会が回ってこない。 これは完全にもったいないと思う。スキルの持ち腐れ。
ただ、すべての保守エンジニアが評価されないかというと、そうでもないという話もしておきたい。 例えばGoogleが提唱した SRE(Site Reliability Engineering) というロール。 「ソフトウェアエンジニアリングの手法で運用問題を解く」というアプローチで、 保守・運用をエンジニアリングの仕事として再定義したんです。 📎 https://sre.google/sre-book/eliminating-toil/
SREで面白いのが 「Toil(トイル)50%ルール」。 Toilというのは「手作業で繰り返し発生する、自動化できるはずの作業」のこと。 Googleは「SREがToilに費やす時間は全体の50%以下にすること」をルールにしていて、 残り50%は自動化・改善・新しいエンジニアリングに充てるべきだと言っている。 つまり「保守=ひたすら手を動かすだけ」ではなく、保守の中にちゃんと開発・創造の時間を組み込む設計をしている。
もうひとつ面白い概念が 「エラーバジェット」。 サービスの「壊れていい許容量」をあらかじめ決めておくやり方で、 例えば「月間99.9%稼働」を目標にするなら「0.1%=約44分」の停止は許容範囲。 このバジェットが余ってる間は新機能をどんどんリリースしていい、使い切ったら開発を止めて信頼性改善に集中する。 これ、「信頼性」を数字で語れるようにしたというのがすごくて、保守の価値を定量化しているんですよ。 📎 https://renue.co.jp/posts/sre-site-reliability-engineering-slo-error-budget-practice-guide
日本のコンテキストだと、「2025年の崖」 って言葉がありましたよね。 老朽化したレガシーシステムを刷新できないとDXが進まない、という経産省が言った話ですけど、 その裏で「そのレガシーを今まさに支えている人たち」の存在がある。 大規模な基幹システムの保守は属人化していて、その人がいなくなったら終わる、というケースが6割以上。 これって評価が低い話どころか、組織のリスクそのものなんですよね。 📎 https://www.seraku.co.jp/tectec-note/feature/hrlp_2025gake/
まとめると、保守・運用エンジニアの置かれている状況って3パターンある気がしていて。 ① 実際にスキルアップをサボっていて評価が低い(これは正直な話) ② スキルはあるのに、ポジションのせいでチャンスが回ってこないという構造的な問題 ③ SREみたいなアプローチで保守を再定義して、ちゃんと評価されているケース 日本の多くの会社は②が多いんじゃないかな、というのが僕の仮説。
最後に言いたいのは、「当たり前を当たり前にできる人」はすごいということ。 洗濯機が動く、サービスが止まらない、メールが届く。 誰かがそれを支えているから「当たり前」になっている。 それを「目に見えないから価値がない」ではなくて、「目に見えないからこそきちんと評価する仕組み」が必要だと思う。 SREのエラーバジェットみたいに、「信頼性を数字にする」という方向性はその一つの答えだと思います。
エンディング
【ジングル】 さて、そろそろ今回もお時間です。 面白かったよーという方は、ぜひチャンネル登録もお願いします。話してほしいトピックや感想は、概要欄のフォームか 𝕏 で「WEB 小噺」でつぶやいてください。web はアルファベット、「小噺」は漢字でもひらがなでも大丈夫です! それでは、また雨宿りしに来てください。お相手は Keeth でした。さようなら! 【ジングル】