忘れがちなことは,全部未来の自分の話
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台本
オープニング
【ジングル】 はい,どうもこんにちは.「雨宿りとWEBの小噺」始まりました.気づきの配達屋 Keethこと桑原です.
この番組では,気にも留めていなかったものに光を当てることで,世界の見え方が少し変わるかもしれない,そんな Web 業界の裏話や小噺をご紹介しております.
今回のお題は「エンジニアが忘れがちなこと5選」です.
本題
今回はですね,ちょっといつもと毛色の違う回になります.とある企画の参加回です.
「喋り足りない部」という番組をやられている,まいこうさんという方がいらっしゃいます.その方が主催されている「雑談系ポッドキャストの日」通称「雑ポday」というイベントがありましてこの表記がちょっと洒落てていいですよね.
この企画ですが,参加するポッドキャスターがそれぞれ自分の番組で,共通のテーマについて雑談する,という企画です.みんなで集まって一緒に録るわけじゃなくて,各自が自分のいつもの番組で同じお題を扱う.なので聴く側は,同じテーマで番組をまたいで聴き比べられるわけです.同じお題なのに番組の色で全然違うものが出てくるので,これは企画として本当に面白いと思います.
で,今回が第7回になりまして,今回のトークテーマが「忘れがちなこと」です.この企画はかなり自由にやっていいらしくて,「これって忘れがちだよね」というものがエピソードの冒頭で一瞬でも入っていればオッケーです,ということでかなり緩めです.私の参加する9/23 はDay7,最終日です.
さて,本トークに入っていくのですが,いざ「忘れがちなこと」って何だろうと考え始めたら,意外と思い出せず,忘れがちなことって,忘れてるから出てこないんですよ.当たり前なんですけど(笑).思い出せた時点で,それはもう忘れてないですからね.
で,私の番組は Web 周りのお話をしますので,せっかくなら「エンジニアが忘れがちなこと」でいこうと思います.
ただ,最初にお断りをひとつ.この5つ,だんだんエンジニア寄りになっていきます.1つ目と2つ目は完全に誰でも分かる話です.エンジニア関係ないです.3つ目あたりから少しずつ現場の匂いがしてきて,4つ目と5つ目は結構ディープなところまで行きます.専門用語はその都度かみ砕いていくので,非エンジニアの方は前半で「あー分かる」と頷いていただいて,後半は「へー,そんな世界なんだ」くらいの温度で聞いていただけたら嬉しいです.
じゃあ,1つ目からいきましょう.
1つ目.「あと5分」の5分は,絶対に5分じゃない.
これ,たぶんエンジニアじゃなくても身に覚えがある方,多いと思うんですよね.
今はリモートワークが当たり前になりましたけど,昔はみんな出社してたじゃないですか.その頃の話なんですけど,お昼どきになって,同僚のエンジニアに「そろそろメシ行こうぜ」って声をかけるわけですよ.そうすると,だいたい返ってくる言葉が決まってて.「ちょっと待って,あともう少し」.あるいは「今キリ悪いから,ちょい待って」.
この「ちょい」がですね.長いんですよ.本当に長い.
僕は経験上もう分かってるので,途中からこう返すようになりました.「それ,ちょっとじゃ終わらんでしょ」と.で,どうするかというと,もうバツッと区切ってもらって,気になるのは分かるけどご飯のあとにやろうぜ,と言うか,もしくは「じゃあ今回は僕ひとりで行ってくるわ」と言って,こちらが引く.この二択にしました.中途半端に待つのが一番よくないです.待ってる側もイライラするし,待たせてる側も焦って良い仕事にならないので.
なんでこうなるのかというと,たぶん2つあってですね.
ひとつは,キリのいいところまで,という感覚が曲者なんですよ.エンジニアの作業って,頭の中に地図を広げてる状態なんですね.今どこをいじってて,これを直すとあそこに影響が出て,だからその前にこっちを確認して......という状態が頭の中にある.この地図,席を立った瞬間にけっこう消えるんです.だから「キリのいいところまで」というのは,正確には「この地図をたたんでも大丈夫なところまで」という意味なんですよ.で,そこまで行くのに,本人が思っているより時間がかかる.
もうひとつは,もっと単純で,僕らは自分の作業の残り時間を見積もるのが壊滅的に下手だということです.これは心理学の世界でも「計画錯誤」という名前がついていて,人は自分の作業にかかる時間を過小に見積もる癖がある,と言われています.他人の作業には割と正確な見積もりを出せるのに,自分のことになると急に楽観的になるらしいです.身に覚えがありすぎますね.
エンジニアの世界には,この話にぴったりの有名な言葉がありまして.ベル研究所のトム・カージルさんという方の言葉として知られているんですけど,「コードの最初の90パーセントが開発時間の90パーセントを占める.残りの10パーセントのコードが,開発時間のもう90パーセントを占める」.合計180パーセントですね(笑).算数がおかしいんですけど,これ,聞いた瞬間に全エンジニアが納得するやつです.
で,面白いのが,この「あと少し」問題,最近ちょっと事情が変わってきてる気がするんですよ.AI にコードを書かせるようになってから,あの「あと5分」が本当に5分で終わることが増えました.手が止まってた原因が,たいてい「思い出せないこと」とか「調べないと書けないこと」だったので,そこが一瞬で埋まるようになった.これは地味にすごい変化だと思います.
ただ,そのかわり別の「あと少し」が生まれてまして.AI が出してきたものをレビューする「あと少し」ですね.これが終わらない.結局,人類は「あと少し」から逃れられないんだなと思います.
2つ目.「やった」で満足して,効くかどうかを確かめ忘れる.
これも,まだ誰でも分かる話です.
分かりやすいところで言うと,保存したつもり,ですよね.資料を作り込んで,よし完璧だ,と思って画面を閉じたら保存してなかった.あるいは保存したと思ってたけど,別の場所に保存されてた.これ,やったことない人いないんじゃないですかね.
エンジニアの世界でも,ほぼ同じことが起きます.コードを書き換えて,動かして,あれ,変わらないぞ,おかしいな,と30分くらい悩んで,保存してなかったことに気づく.本当にしょうもないんですけど,これ,ベテランでもやります.というか,ベテランほど手が慣れてるぶん油断してやります.
で,ここからが本題で,この「やったつもり」が一番怖い形で出てくるのがバックアップです.
バックアップ,みなさん取ってますよね.エンジニアなら,仕事で必ず取ります.データベースのバックアップ,サーバーのバックアップ,設定ファイルのバックアップ.毎日決まった時間に自動で走るように仕込んで,「よし,これで安心だ」となる.
なるんですけど.そのバックアップから,本当に元に戻せるかどうか,試したことありますか,という話なんですよ.
これ,業界では割と有名な教訓でして.バックアップというのは,取ることが目的じゃなくて,戻せることが目的なんですよね.なのに僕らは「取った」時点で安心してしまう.そして,いざ本当に壊れたときに初めてバックアップを開いて,ファイルが壊れてることに気づく.中身が空だったことに気づく.あるいは,戻し方が分からなくて右往左往する.
一番よく聞くのは,バックアップは毎日ちゃんと取れてました,と.でも取ってたのは3ヶ月前にデータベースを引っ越す前の,古い方のサーバーでした,というやつですね.設定を移すのを忘れてて,新しい方のバックアップは1日も取れていなかった.ログは毎日「成功」と出てるんですよ.古い方のバックアップに成功してるので.
この「成功しているが意味がない」というのが,本当に厄介です.
同じ構造の話がもうひとつあって,監視です.サーバーが落ちたら通知が飛ぶように仕込む,というのを必ずやるんですけど,その通知が実際に飛ぶかどうかを試してない.設定した気になってる.で,本当に落ちた日に,誰にも通知が来ない.気づいたのはお客さんからの電話でした,という.
これ,すごく人間らしい忘れ方だと思うんですよ.「備える」という行為で,もう心が満足しちゃうんですよね.防災グッズを買って押し入れにしまって,中身の賞味期限を一度も見てない,あれと完全に同じ構造です.僕も人のこと言えないです.
3つ目.期限が来ることを,期限が来るまで忘れる.
ここから少しエンジニア寄りになってきます.
日常でも,ドメインの更新とか,サブスクの更新とか,クレジットカードの有効期限とか,ありますよね.特にクレジットカードの期限切れ,これ地味に効きます.クラウドサービスの支払いに使ってるカードが期限切れになって,気づいたらサービスが止まってた,というのは個人開発だと本当によくある話です.しかも止まるまで誰も気づかない.
で,エンジニアの世界でこの手の「期限もの」の代表格が,SSL証明書です.
SSL証明書というのは,ざっくり言うと,このサイトは本物ですよ,通信も暗号化されてますよ,ということを証明してくれる電子的な証明書ですね.ブラウザのアドレスバーに鍵のマークが出るじゃないですか.あれが出てるのは,その証明書がちゃんと有効だからです.で,これに有効期限があるんですよ.切れると,ブラウザが真っ赤な警告画面を出します.「この接続はプライベートではありません」みたいなやつですね.あれが出た瞬間,ユーザーは普通に逃げます.
今でこそ,この証明書は無料で取れて,しかも自動で更新してくれる仕組みが整っています.Let's Encrypt というサービスが出てきて,業界の景色を丸ごと変えました.でも,昔は全然そうじゃなかったんですよ.
僕が若い頃は,SSL証明書って,申請してから発行されるまでに時間がかかったんですよね.種類にもよりますけど,1ヶ月くらい前に申請とか登録を出しておかないと間に合わない,みたいな世界でした.「明日リリースだ,そうだ証明書だ」って前日に気づいても,もうどうにもならない.
で,これを本当に忘れてしまって,リリースできませんでした,という話は,普通に聞いたことがあります.僕自身がやったわけじゃないんですけど,やった人の話は聞くんですよ.
これ,考えてみると結構しんどい状況でして.サイト自体は完成してるんです.デザインも終わってる,中身も入ってる,テストも通ってる.でも証明書がないから公開できない.いや,技術的には公開できるんですけど,SSLなしで出すわけにはいかないじゃないですか.会社概要が載ってるだけの静的なサイト,つまりフォームも何もなくて,公開情報を置いてるだけのサイトであっても,鍵マークがないと,それだけで信頼性が落ちます.見た人が「え?」って思いますよね.ましてやECサイト,ネットショップですよ.SSLなしのECサイトでクレジットカードの番号を入れるユーザーは,さすがにいないです.
つまり,証明書1枚を忘れただけで,何十人月もかけて作ったものが,出せなくなる.この落差がすごいんですよね.技術的には何の問題もないのに,事務手続きを忘れたせいで止まる.
じゃあ今は安心かというと,そうでもなくてですね.自動更新の仕組みを入れたとして,その自動更新がちゃんと動いてるかどうかを確認するのを,また忘れるんですよ.さっきの2つ目の話に戻ってくるわけです.備えたことで満足して,備えが生きてるかを見ない.結局これなんですよね.
実際,証明書の期限切れで大きなサービスが止まったというニュースは,何年かおきに必ず出てきます.そのたびに業界がざわついて,みんな自分の証明書を確認して,しばらくすると忘れる.この周期が,たぶんずっと続いてます.
4つ目.元に戻せない,ということを忘れる.
はい,ここからガッツリ現場の話になります.そして今日いちばん話したいのが,これです.
この回を作るにあたって,自分の失敗を思い返してみたんですよ.そうしたら,2つ大きいのが出てきまして.ただ,最初はこれ「忘れがちなこと」じゃないな,と思ったんですね.単に間違えただけじゃないかと.でも並べてみたら,どちらも同じことを忘れていたんです.
ひとつ目.これは本当にやらかした話です.
昔,画像を大量に扱うサイトの仕事をしてたんですけど,画像の入稿をどうするかという問題がありまして.デザイン会社さんとか,委託先の会社さんとか,社外の方が画像を作ってくれるわけです.で,当時の運用が,「とりあえずこのフォルダに画像をアップしてください」と共有する,という方式でした.FFFTPとかを使ってアップしてもらってた記憶があります.古き良き,というか,今考えるとなかなかの運用ですね(笑).
で,そこに画像が入ったら,本番のサーバーに同期する,という作業が発生します.このとき使うのが rsync というコマンドでして.これ,2つの場所を比べて,違うところだけを効率よくコピーしてくれる道具なんですね.AとBを見比べて,Aにあるけどcにない分だけを運ぶ,みたいなことをやってくれる.すごく便利なんですよ.
便利なんですけど,このコマンド,どっちからどっちへコピーするか,という向きを自分で指定するんです.で,僕はその向きを,逆にしました.
何が起きたかというと,本番サーバーの画像が,全部消えました.
空っぽのフォルダを本番に同期したので,本番側が「ああ,こっちに合わせればいいのね」と理解して,きれいさっぱり消してくれたわけです.rsync は仕事をしただけなんですよ.僕が向きを逆に言ったから,その通りにやった.一切悪くないんですよね,あいつは.
もうひとつ.こっちはもうちょっと地味なんですけど,怖さで言うと同じくらいです.
だいぶ前に NiftyCloud というクラウドサービスを使ってた時期がありまして.先輩から「サーバーを1台立ち上げて,お客さん用の環境を整えといて」と言われたんですね.で,手順書があったので,その通りにやっていました.やっていたつもりでした.
どこで何を間違えたのか,正直もう覚えてないんですけど,設定をいじっているうちに,自分がそのサーバーにSSHで入れなくなったんですよ.SSHというのは,遠くにあるサーバーに手元から入って操作するための入口ですね.これが,管理者である僕自身に対して閉じてしまった.
自分で自分を締め出したわけです.鍵を部屋の中に置いたまま,オートロックのドアを閉めた状態ですね.
結局どうしたかというと,どうにもならないので,NiftyCloud の管理コンソール,つまりブラウザの管理画面から,そのサーバーのインスタンスを丸ごと削除して,もう一度作り直しました.今で言う,EC2 みたいなものですね.
これ,不幸中の幸いだったのは,環境を作ってる途中だったことなんです.まだアプリケーションも載せてないし,設定もほとんど何も入ってない段階だったので,消して作り直しても大した損害じゃなかった.
でも,考えてみてほしいんですけど,普通は先に環境を整えてから,その上にソースコードとかアプリケーションの設定を載せていくじゃないですか.つまり,もし順番が違っていて,ある程度いろんなものが積み上がったあとに同じミスをしていたら,どうなってたか.
誰もアクセスできない,完璧に整った本番環境が,そこに完成するわけです.
これ,想像すると結構ゾッとします.中身は全部ちゃんとできてるのに,誰も入れない.外からは動いてるように見えるかもしれないけど,中をいじることが誰にもできない.作り直すしかない.しかも作り直せば当然,載せたものは全部やり直しです.
で,この2つ,最初は「単なるミス」だと思ってたんですよ.でも,共通しているものがありました.
どちらも,そのコマンドには取り消しがない,ということを忘れていたんです.
僕らは普段,取り消せる世界で仕事をしてるんですよね.コードを書き間違えても,保存前ならすぐ戻せる.保存したあとでも,バージョン管理の仕組みがあるので履歴から戻せる.その感覚が体に染みついてる.だから手が軽くなる.
でも,サーバーとかデータとかに触る操作には,この「戻る」が存在しないものが混じってるんです.rsync で同期して消えたファイルは,戻ってきません.消したインスタンスも戻ってきません.データベースのテーブルを消すコマンドも,ファイルを問答無用で消すコマンドも,全部そうです.
で,厄介なのが,取り消せる操作と取り消せない操作が,見た目でほとんど区別つかないことなんですよ.どっちも同じように1行のコマンドで,同じようにターミナルに打ち込んで,同じようにエンターを押す.見た目が同じなんです.だから体が「いつもの感じ」で反応する.
この「いつもの感じ」が一番怖い.
じゃあどうすればいいかというと,実はちゃんと手はありまして.たとえば rsync には,実際には動かさずに「こうしますよ」という結果だけ見せてくれるオプションがあるんですね.dry-run,日本語で言うと「予行演習」みたいなやつです.これを付けて1回流せば,向きを逆にしてたら「大量に消えます」って出るので,その場で気づけます.
ただ,これを毎回付けるかというと,付けないんですよ.急いでるときほど付けない.そして急いでるときほど間違える.人間が悪い.
なので僕は,これ以来ひとつルールを決めてまして.本番に触るときは,エンターを押す前に,一度だけ指を止めて,コマンドを左から右まで声に出さずに読む,ということをやるようにしました.たった数秒なんですけど,この数秒で助かったことが何度かあります.
さっきの「あと5分」の話と真逆ですよね.あっちは自分の時間を短く見積もる話で,こっちは数秒をケチって取り返しのつかないことをやる話です.人間ってつくづく時間の使い方が下手だなと思います.
5つ目.3ヶ月前の自分は,もう他人.
最後です.これが一番じわじわ来るやつです.
エンジニアあるあるの筆頭かもしれないんですけど,自分が書いたコードを半年後に読み返して,「誰だこれ書いたの」って思う,というのがありまして.犯人は自分なんですけどね.
なんでこうなるのかというと,コードって,何をやっているかは残るんですよ.書いてあるので.でも,なぜそうしたか,は残らないんです.
たとえば,ちょっと変な書き方がしてあるところがあるとして.普通に書けばいいのに,わざわざ回りくどいことをしてる.これ,当時はちゃんと理由があったんですよ.そう書かないと動かない事情があったとか,あるライブラリにそういう癖があったとか,お客さんから特殊な要望が来てたとか.
その理由が,どこにも残っていない.
で,半年後の自分,あるいは別の誰かがそれを見て,「なんだこの無駄な処理は,整理しよう」と言ってきれいに書き直す.そして,かつて起きた問題がそのまま再発します.これ,本当によくあります.
同じことが,ドキュメントでも起きます.README というのは,そのプロジェクトの説明書ですね.どうやって動かすか,何が必要か,といったことが書いてある.で,これ,最初に書いたときは完璧なんですよ.でも,コードは日々変わっていくのに,README は変わらない.そうすると,3ヶ月くらい経ったあたりから,書いてある通りにやっても動かなくなります.
これが一番よく分かるのが,新しい人が入ってきたときですね.手順書を渡して「これ通りにやってみて」と言うと,動かない.で,本人は自分が悪いと思って,何時間も詰まってる.実際には,手順書のほうが古かっただけなんです.
これ,僕は今 Engineering HR という,技術広報とか採用広報と呼ばれる仕事をしてまして,人が入ってくる場面を見ることが多いんですけど,この「最初の1日で詰まる」というのは本当にもったいないなと思います.その人の能力と1ミリも関係ないところで,最初の印象が決まってしまうので.
で,なんで README が古くなるかというと,別にみんな不真面目なわけじゃないんですよ.コードを直した人にとって,README は視界に入ってないだけなんです.目の前の問題は解けた,テストも通った,よし完了,となる.そこに README は出てこない.
さっきから同じ話をしてる気がしますよね.そうなんですよ.2つ目の「やったつもり」も,3つ目の「期限を忘れる」も,これも全部,目の前の作業が終わった瞬間に,視野が閉じるという話なんです.
さて,5つ並べてきました.
「あと5分」は5分じゃない.「やった」で満足して効くか確かめない.期限が来るまで期限を忘れる.取り消せないことを忘れる.3ヶ月前の自分は他人.
こうやって並べてみて,僕が思うのは,これ全部「未来の自分」に関する忘れ物なんですよね.
あと5分と言ってる自分は,5分後の自分のことを考えてない.バックアップを取ってる自分は,それを使う日の自分のことを考えてない.今エンターを押そうとしてる自分は,1秒後の自分のことを考えてない.コードを書いてる自分は,半年後にそれを読む自分のことを考えてない.
未来の自分って,他人なんですよ.今の自分とは別人で,今の自分が何を考えてたかを一切知らない状態でやってくる.しかも,なぜか今の自分は,そいつのことがすごくどうでもいい.不思議ですよね.
で,最後にもうひとつだけ.これが本当に一番忘れがちだと思ってることです.
今日話してきたことって,ほとんどが「誰かがちゃんとやってくれているおかげで,何も起きていない」話なんですよ.証明書が切れてないのは,誰かが更新してるからです.サービスが落ちてないのは,誰かが監視を直したからです.みなさんが今この番組を聴けているのも,どこかのサーバーが動いてて,誰かがそれを面倒見てるからなんですよね.
うまくいってる限り,僕らはそれを一切思い出しません.思い出すのは,壊れた日だけです.
この番組でいつも言ってることなんですけど,Web の裏側には,必ず誰かがいます.そして,その名前は,たいてい残っていない.うまくいってるときは,特にそうです.
なので,今日いちばん忘れがちなこととして挙げたいのは,これですね.動いているものは,勝手に動いているわけじゃない. 誰かが動かし続けてる.
それを思い出すだけで,たぶん世界の見え方がちょっと変わると思います.僕も忘れるんですけどね(笑).忘れるからこそ,こうやってたまに口に出しておこうと思います.
はい,ということで,雑談系ポッドキャストの日,雑ポDay の第7回,テーマ「忘れがちなこと」でお送りしました.まいこさん,素敵な企画をありがとうございます.他の参加番組さんも,きっと全然違う「忘れがちなこと」を話されてると思うので,ハッシュタグから辿って聴き比べていただけると楽しいと思います.
📎 https://ja.wikipedia.org/wiki/計画錯誤 📎 https://en.wikipedia.org/wiki/Planning_fallacy 📎 https://en.wikipedia.org/wiki/Ninety-ninety_rule 📎 https://letsencrypt.org/ja/ 📎 https://knowledge.digicert.com/jp/general-information/lead-time-for-ssl-certificate-issuance 📎 https://www.ciodive.com/news/microsoft-Teams-outage-security-certificate/571639/ 📎 https://www.forbes.com/sites/daveywinder/2018/12/07/here-is-the-ridiculous-reason-32-million-telefonica-o2-users-waved-goodbye-to-4g-data-yesterday/
エンディング
【エンディングBGM】 さて,そろそろ今回もクロージングです. 今回は「エンジニアが忘れがちなこと5選」について話しました.
次回も,Webテクノロジーの小噺をお届けします.
この番組が気に入った方は,ぜひチャンネル登録をお願いします. また,あなたからの感想やリクエストもお待ちしております! 𝕏で #WEB小噺 をつけて投稿していただくか,概要欄のお便りフォームからお送りください.
それでは,また次回の雨宿りでお会いしましょう!「雨宿りとWEBの小噺」お相手は Keeth でした.さようなら! 【ジングル】
📣 配信メタ
タイトル
- 【#雑談系ポッドキャストの日 vol.7】忘れがちなことは,全部未来の自分の話
(別案:15. 「あと5分」は絶対に5分じゃない / 15. 3ヶ月前の自分は,もう他人)
概要欄
「そろそろメシ行こうぜ」と声をかけると,だいたい決まった言葉が返ってきます.「ちょっと待って,あともう少し」.この「ちょい」が,本当に長い.
第15回は,エンジニアがついつい忘れてしまうことについてお話しました!これは,「あと5分」の話と,取り返しのつかない操作の話と,動いているものは誰かが動かしているという話です.是非お聴きください💁
この番組は,詳しい人のための番組ではなく,気になった人のための番組です.前半は誰でも分かる話から始めて,後半にいくほど現場の深いところへ降りていきます.専門用語はその都度かみ砕くので,気楽に聴いてください.
【今回の内容】
- 90-90の法則:ベル研究所の Tom Cargill が残した,足すと180パーセントになってしまう開発時間の法則
- rsync:同期の向きを逆にして,本番サーバーの画像を全部消した話
- SSL証明書:証明書1枚を忘れただけで,完成しているサイトが公開できなくなる
【参考リンク】
- 「Ninety-ninety rule」Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Ninety-ninety_rule
- 「計画錯誤」Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/計画錯誤
- DigiCert「SSL 証明書の発行にかかる期間」. https://knowledge.digicert.com/jp/general-information/lead-time-for-ssl-certificate-issuance
- Let's Encrypt. https://letsencrypt.org/ja/
【訂正】
- 本編で「他人の作業は割と正確に見積もれる」と話しましたが,正確には逆で,第三者の見積もりは悲観的に偏る(多めに見積もる)傾向があるとされています.計画錯誤は「自分のタスクにだけ楽観的になる」非対称なバイアスです
- 本編の「SSL証明書は1ヶ月前に申請」は手続き全体の体感です.審査・発行自体の目安は DV が即日,OV が数営業日,EV が1〜2週間程度でした
ではでは(=゚ω゚)ノ
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【📣宣伝📣】
- 雑談系ポッドキャストの日(雑ポDay)vol.7「忘れがちなこと」に参加しています.他の参加番組さんも,きっと全然違う「忘れがちなこと」を話されているので,ハッシュタグから辿って聴き比べてみてください
- {告知タイトル}
ーーーーー
【📧 コンタクト】
- おたよりフォーム: https://forms.gle/utkE7JBKSReSdArPA
- 公式𝕏: https://x.com/kuwahara_jsri
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告知ポスト
/ 📣「雨宿りとWEBの小噺」Season 5-15 更新! 【#雑談系ポッドキャストの日 vol.7】忘れがちなことは,全部未来の自分の話 \
「ちょっと待って,あともう少し」.この「ちょい」が長い.なぜ僕らは自分の残り時間だけ見誤るのか.そして,取り消しのないコマンドを「いつもの感じ」で打ってしまうのか.並べてみたら,全部「未来の自分」への忘れ物でした❗️
↓リンクから是非お聴きください💁
web小噺 #webこばなし
リプライポスト
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📚 参考情報
- 企画:雑談系ポッドキャストの日(雑ポDay)vol.7「忘れがちなこと」
- 主催:まいこさん(番組「喋り足りない部」)
- 各自が自分の番組で共通テーマについて話す形式
- 計画錯誤(planning fallacy)
- 人は自分の作業にかかる時間を過小に見積もる.Kahneman & Tversky(1979)由来
- ⚠️ 外部観察者は「正確」ではなく悲観的に偏り,他人のタスクを過大に見積もる傾向がある
- 90-90 の法則
- ✅ ベル研究所の Tom Cargill(トム・カージル)の言葉.文言も台本どおりで正確
- Jon Bentley の 1985 年 9 月 CACM「Programming Pearls」で広まった
- SSL証明書
- ⚠️ 発行そのもののリードタイムは DV が即日,OV が約 3 営業日,EV が 3〜5 営業日(DigiCert 公表値)
- 登記簿の収集・電話確認・社内稟議まで含めた手続き全体なら数週間かかることはある
- ✅ Let's Encrypt の登場で無料化・ACME による自動更新が一般化した(約 7 億サイトに提供)
- ✅ 証明書の期限切れによる大規模障害は周期的に発生 (2018/12 Ericsson→O2 で約 3,200 万人,2020/02 Microsoft Teams 約 3 時間停止)
- 本人の実体験
- rsync の同期方向を逆にして本番サーバーの全画像を消した
- NiftyCloud でサーバー構築中に自分を SSH から締め出し,インスタンスを作り直した
収録後に判明した訂正(概要欄に載せる)
収録済みのため本文は直していない.以下は概要欄の注記として出す.
- 計画錯誤:本編で「他人の作業は割と正確に見積もれる」と話したが,正確には逆で, 第三者の見積もりは悲観的に偏る(多めに見積もる)傾向があるとされる. 計画錯誤は「自分のタスクにだけ楽観的になる」非対称なバイアスである
- SSL証明書の「1ヶ月前」:これは手続き全体の体感.審査・発行自体の目安は DV が即日,OV が数営業日,EV が 1〜2 週間程度
🎙️ 収録メモ
焦点:エンジニアが忘れがちなこと5選(雑ポDay vol.7 参加回) これは,「あと5分」の話と,取り返しのつかない操作の話と,動いているものは誰かが動かしているという話です.
トーン
雑談企画なので堅くしない.前半2つは笑い話として軽快に,4つ目で一度トーンを落として,締めで持ち上げる.
並びの意図
1つ目・2つ目は非エンジニアでも完全に分かる話.3つ目から現場の匂いを出し,4つ目・5つ目でエンジニアの深いところへ. 冒頭でこのグラデーションを明示してあるので,非エンジニアのリスナーが置いていかれない.
強調ポイント
- 4つ目の「そのコマンドには取り消しがない,ということを忘れていた」が山.ここで一拍置く
- 「誰もアクセスできない,完璧に整った本番環境が,そこに完成する」はゆっくり読む
- 締めの「動いているものは,勝手に動いているわけじゃない」は番組のタグラインと重ねている
ファクトチェック済み(2026-09-23)
検証 5 件.要修正 2 件(計画錯誤の後半/SSL の「1ヶ月」)は収録済みのため本文を直さず, 「収録後に判明した訂正」として概要欄で補正する.90-90 の法則・Let's Encrypt・ 証明書切れの大規模障害は確認済み.
表記の申し送り
- 主催者名が本文中で揺れている(L21「まいこうさん」/L208「まいこさん」). 人名なので勝手に統一していない.正しい表記に合わせること
- 「雑ポday」(L21)と「雑ポDay」(L208)も揺れている
- トム・カージルは日本語圏で「トム・カーギル」表記も見かける.
概要欄では英語表記
Tom Cargillを併記するのが無難
尺
本編 約9,200字 ≒ 28分
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